この空を羽ばたく鳥のように。





 お城三の丸からご出立する若殿さまのご一行を、祈る気持ちで見送った。

 まだまだ暑さの残る、よく晴れ渡った日。

 青空を背にして、若殿喜徳さまは(よわい)十四と幼いながらも、洋装の軍服をまとい威風堂々たる馬上姿を民に見せた。
 その前後を守るようにして、白虎隊と藩兵が連なっている。

 行軍の向こう側の人混みの中に、おさきちゃんやおゆきちゃんの姿を見つけた。
 彼女らも大切な家族の出立を見送りに来ていた。

 列を歩く喜代美の姿は、ほんのわずかなあいだしか見えない。
 でもその一瞬に、喜代美と私は互いの顔をしっかりと見交わした。

 行軍の中 颯爽(さっそう)と歩いてゆく喜代美の姿。
 きりりと引き締めた表情が、私の胸に誇らしく残る。

 ふいに熱気を払うように、涼やかな風が吹いた。
 その風が、暑いなか見送りに赴いた人々の額に浮かぶ汗を心地よく冷やしてくれる。

 私も風にほつれた髪を(びん)に撫でつけながら、隊士達の背に消えてゆく喜代美の後ろ姿を見つめ続けた。



 (……待ってるから……)



 福良へ行くには、滝沢峠を越えて赤井・西田面(にしたずら)・原を通ってゆくのだと、父上はおっしゃった。

 目的地の福良の向こうには、勢至堂峠を越えて白河があり、その先には江戸へと続く街道がある。

 しかしその街道も新政府軍に占拠され、わが軍は白河から一歩も進ませぬと必死に戦い続けている。


 喜代美がどの道を通ってゆくかを聞かされても、城下から一歩も出たことのない私にはいまいちピンとこなかった。
 ただ 喜代美がきっと、初めてばかりの体験に胸を躍らせているだろうことは容易に想像できた。


 若殿さまはしばらく福良に滞在して、戦況を見極めるのだとか。
 だとしたら十日は帰ってこないだろう。
 もしかしたら、それ以上かかるかもしれない。


 屋敷に戻った私は、自分の部屋から中庭を眺めた。
 向かい側の障子を開け放した喜代美の部屋に目を遣る。
 きれいに整頓された主人のいない部屋は、寂寥の物悲しさを感じさせた。

 たった今見送ったばかりなのに、もうずいぶんと会っていないような寂しさが心の中で広がり、思わず胸を押さえた。










 ※寂寥(せきりょう)……ひっそりして、ものさびしいこと。