閏四月末から始まった白河戦争は、第九次を迎えていた。
 しかしそのほとんどが拙戦(せっせん)であり、東軍(同盟軍)は今だ白河を取り返すことができないでいた。


 なかなか白河城を取り返せないことに容保さまは焦り、白河方面を戦う兵士達の士気を高めようと、養嗣子(ようしし)である若殿・喜徳(ひさのり)さまに、会津から白河へゆく街道の中間地点である福良まで出向かせ兵を激励することにした。


 その護衛のために命令が下ったのは、白虎士中一番隊と二番隊である。



 ――――とうとう来た、喜代美の初陣。



 高まる不安を抑え、期待を込めて。
 喜代美の軍服は、母上とみどり姉さまと私で手分けして縫い上げた。



 そして、その日はあっという間に訪れる。
 七月十日。出立の日。



 「それでは行って参ります」



 持ち前の長身に、黒の上下で仕立てた軍服をすっきりと着こなし、額に白い鉢巻きを締めた凛々しい姿の喜代美は、見送りに出た家族の前で深々と頭を下げた。



 「そなたにとっても、見聞を広めるよい機会となろう。皆に遅れをとらず、しっかりと励むがよいぞ」



 父上が(おごそ)かな口調で激励のお言葉をかける。
 それに応えて、喜代美も口元を引き締めて短く頷いた。



 「はい。肝に命じてご奉公して参ります」



 家族が見送るなか、皆の顔を見渡して最後に私の顔を見つめたあと、喜代美はもう一度深くお辞儀をした。
 それから背を向ける彼に、離れがたくて門前までついてゆく。



 「喜代美……身体に気をつけてね。無理しちゃダメだからね」



 そんなことを言いながら後に続く私に、前を歩く喜代美は含み笑いを漏らす。



 「初めてのことばかりで浮かれていないで、しっかり食べて休む時はゆっくり休んで。怪我にも気をつけるのよ。
 あとそれから生き物を見かけても、それに気を取られないようにして……」

 「さより姉上」



 門の手前で立ち止まると、喜代美は苦笑しながら私を振り返った。










 ※拙戦(せっせん)……へたな戦いをすること。まずい戦い。