この空を羽ばたく鳥のように。





 『喜代美と幸せになってください』。
 『お前はお前の()すべき道をゆけ』。


 私と喜代美に、それぞれそう言い残していった八郎さま。
 その八郎さまの笑顔が、脳裏にまぶしくよみがえる。

 八郎さまは 想いなどないと、私に嘘をおっしゃった。
 それは、弟の喜代美を大事に思っていたからこそ。

 それが分かるから、喜代美は兄君の幸せを阻んでしまった自分が、何もせずにただ傍観していた自分が許せなくて苦しんでいる。

 苦しみを打ち明ける姿が痛々しくて、手を伸ばしてそっと彼を抱きしめた。
 私の耳元で、驚きに満ちた喜代美が息を詰まらせる気配が伝わってくる。



 「お願いだから、そんなに自分を責めないで……。喜代美のせいじゃない。誰も何も悪くないよ」



 喜代美は身を固くしたまま動かない。



 「人にはそれぞれ生きる道があるの……。生きてゆく中で、どの道を選ぶかはその人次第よ。
 私は、八郎さまは悔いなく今の道を選んだと信じてる」



 別れ際の、あの迷いのない晴ればれとした八郎さまの笑顔。
 八郎さまはすべてを受け入れ、その中でご自分を活かす道を見つけたのだ。



 ――――私も八郎さまのように、悔いなく笑っていたい。
 そして誰よりも、喜代美の前で素直でありたい。



 抱きしめる腕に力を込める。
 熱で火照った身体を密着させているせいか、喜代美の身体までもが熱く感じる。

 大きく息を吸い込んで、自分の心を正直に打ち明けた。



 「私が求めているのは、喜代美だけだよ……」