この空を羽ばたく鳥のように。





 遠い越後に目を向ける喜代美に、私の心を知ってほしくて、その袖を右手でそっと掴む。
 それに気づいて、喜代美が伏し目がちな瞳を私に向けた。


 ………気づいて。


 私の心に気づいて。
 私の心はもうずっと以前から、あなたの許にあるんだよ。


 想いをまなざしに乗せる。
 胸に当てた左手で、早まる鼓動を抑える。



 「……喜代美にしかできないことだってあるよ。
 それは津川家を受け継いで、しっかり守ってゆくこと。
 私はその傍らにいて、喜代美の成長を見守ってゆきたい。

 つらい時も嬉しい時も、ともに泣いてともに笑って。
 そして同じ景色を見ていたい。

 それが、私の望む幸せよ」



 喜代美の瞳が、一度大きくまたたく。
 それに呼応して、私の鼓動が早鐘のように鳴り響く。



 「……喜代美は?喜代美はいったい、どんな幸せを求めてる……?」

 「……私は……」



 問われて、瞳がためらうように泳ぐ。
 その表情がみるみる歪んで、喜代美はかぶりを振った。



 「……わかりません。分からなくなりました……」



 苦しそうに漏らすと、彼は降ろしていた腕を上げて虎鉄を抱え直す。
 自然、私が掴んでいた袖は抜かれる形になった。
 そのまま無言で歩きだす彼の背中を見つめて、言いようのない孤独と悲しみを感じた。

 やり場を失った右手はだらりと垂れる。




 ――――まだ 伝わらないんだろうか。


 私の気持ち。


 ………ううん。そうじゃない。
 もしかして喜代美は、私には分からない何かを知っているんじゃなかろうか。



 ………どうすれば、この想いは届くの?



 ねえ。

 喜代美の心を聞かせてよ………。