この空を羽ばたく鳥のように。





 それから私は、家事の合間を見つけては虎鉄を探した。
 ぜんぜん気にも留めていなかったが、確かにここ二•三日 虎鉄の姿を見ていなかった。



 「虎鉄ぅ~!ほら、出てこ―い!魚やるよ~?」



 喜代美がお城に修練に行っている間に、小魚をちらつかせながらそう声をかけてみるけれども、虎鉄はいっこうに姿を現さない。

 ここは何としても、私が見つけて喜代美に喜んでもらいたい。そうすればまた、喜代美の笑顔が見れる気がする。

 けれどやはりそんな(よこしま)な考えを抱いているせいか、それから数日経っても虎鉄は姿を現さなかった。



 (……もう、野犬にでも喰われちゃったのかもしれない)



 いっこうに成果があがらなくて、喜代美にはもう諦めるよう勧めようかな―――なんて考え始めていたある日。
 その日私は、郭外で開かれている市におたかとふたりで出かけた。



 「今日の市は乾物が豊富でしたね」

 「本当!貝柱に昆布に干物……つい買い過ぎちゃった」



 おたかが言うのへ、私も笑顔で返す。

 ご満悦で帰りを戻るなか、ふと猫の鳴き声を聞いた気がした。
 反応して耳を澄ます。
 願望でなく、本当に虎鉄の声だと思ったからだ。



 (……あ。ほら また)

 「お嬢さま?」



 急に足を止めた私を、おたかが訝しむ。



 「虎鉄が近くにいるかもしれない。ちょっと見てくる」



 言うが早いか、鳴き声が聞こえたほうへ足を向けていた。
 足早に歩きながら、今度ははっきりと鳴き声を耳にする。

 鳴き声をたよりに桂林寺町の表通りから細い路地を抜け、外堀付近の護摩堂屋敷と呼ばれる永代寺の裏手に出ると、その堀端近くに生えていた銀杏の木の根元に、数人の子ども達が集まっていた。

 皆 十の歳にも満たない、町人の子ども達のようだ。
 彼らはそろって木を見上げ、石を投げたりしては口々に言いあう。



 「なかなか落ちねぇ」

 「貸してみろ。俺が当ててやる」

 「誰かよぉ、竿持ってこいやぁ」



 それを見て驚いた。
 大人でも手が届きにくい銀杏の枝の先に、黒っぽい猫が毛を逆立てて唸り声をあげている。

 見ればやっぱり虎鉄だった。
 下にいる子ども達は、石をぶつけて虎鉄を落とそうとしているのだ。