おさきちゃんの瞳が潤む。
それを隠すように顔をそらせて、手の甲で目元を拭った。
「これから稽古を受けるなら、雄治のように八重さまに鉄砲を習うべきよ。そのほうが数段役に立つはずだわ」
顔をそむけたまま、おさきちゃんは断言する。
そんな彼女が痛々しくて、私は目を伏せた。
おさきちゃんは大砲隊に属していた兄君や、その兄君の影響を受けてか、やはり砲術に関心が深い弟君を見てきたから、鉄砲の威力とその利をよく知っているのだろう。
今さらこんな薙刀で敵を打ち払おうと考える竹子さまや私達の集まりが、浅はかに見えて仕方ないのかもしれない。
ただ がむしゃらに薙刀で敵に挑むは、無駄な犠牲を増やすだけ―――。
「……私はね、おさきちゃん。敵と戦うつもりで、薙刀を振るっている訳ではないの。
ただ 薙刀を振っている時だけ、不安なことや嫌なことを忘れられるの」
私は自分の正直な思いを告げた。
「ほら、私ってじっとしてられない性分でしょう?
国がこんな時だもの。何も出来ないと分かっていても、何かしていたいのよ」
おさきちゃんが振り向く。
固かった表情が少しだけ緩む。
「なら薙刀を携えて、敵を迎え撃ちに行ったりしないわね?」
「ええ。しないわ」
「本当よ、けして無茶なことはしないと約束して」
「ええ。約束する」
不安めいた表情のおさきちゃんに対して、強く頷いて返す。心の中で、彼女を不安にさせたことを詫びながら。
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