私は小柄で控えめに微笑むおゆきちゃんの姿を思い浮かべた。
薙刀の稽古のため近くには何度も来ているのに、私はおゆきちゃんのお宅を訪ねたことがなかった。
「今度 私も訪ねてみようかな。おゆきちゃん元気だった?」
おさきちゃんに訊ねると、彼女は困ったように目を伏せる。
「……実はあまりそうではないの。おさよちゃんも知っての通り、おゆきちゃんの兄君や雄治が白虎隊に配属されたでしょう?
兄上のことがあったから……おゆきちゃん、不安なのよ。
いつあの子達に出陣命令が下るかと怯えているの」
「……そう」
大切な人がいつ戦地に行ってしまうかと、毎日怯えて暮らしているのか。
そんな日が来るとは思わないけど、不憫だな、と感じた。
彼女の場合、あの気弱そうな性格と不自由な足ではどうしようもないのだろうけど。
きっとおゆきちゃんもそんな自分がもどかしくてたまらないのだろうな。
おゆきちゃんの心境と怖れは、藩士すべての家族が抱いているもの。
ただ怯えてその日を待つか、そうでないかは人それぞれ。
私は怯えながら待っていたくはない。
「……残念ね。おゆきちゃんの足があんなでなかったら、薙刀の稽古に一緒に誘ったのに」
つぶやくように言うと、おさきちゃんはチラリとこちらを一瞥する。
「その薙刀だけど……。おさよちゃんはそんなに腕を磨いてどうするの?」
「どう……って」
突然の問いかけに、言葉に詰まる。
別にどうしようと思わない。
喜代美への想いを、ただ薙刀にぶつけているだけだ。
でもたしかに、いざという時の備えでもあった。
「まさか薙刀を携えて、敵を迎え討つつもりじゃないでしょうね」
こちらを向くおさきちゃんの表情は厳しい。
兄君を失ってから、彼女は急に大人びた。
あの日から消えない愁いを帯びた瞳で、彼女は私に再度問う。
「薙刀で、敵が討てるなんて本気で考えてるの?
今の戦い方は刃を交えるものじゃないのよ、大砲や小銃などの火器がものをいう時代なの。
それなのに、今さら薙刀の稽古を重ねて何になるっていうの?間合いを取る前に、あっという間に弾に撃ち抜かれるわ。
兄上だって、あれだけ剣術や槍術に精進していたのに、討死してしまったのよ……」
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