この空を羽ばたく鳥のように。





 「……やあぁ――っ!」



 気合いとともに打ち下ろされる薙刀。
 私はそれを下から跳ね上げ、そのまま素早く面を狙う。
 それは首を傾げるようにして避けられ、相手は鮮やかな手捌(てさば)きで薙刀の持ち手を変えると私の足を薙ぎ払った。足を(すく)われ、なす(すべ)もなく転倒する。



 「それまで!」



 立ち会い人が声をあげると、相手は軽い笑みを浮かべて構えを解いた。



 「いたた……」



 倒れた拍子にしたたかお尻を打ち、四つん這いになって起き上がると痛むお尻をさする。



 「武家の子女(しじょ)ともあろう者が、お恥ずかしい格好ですね」



 クスクス笑いながら、相手は手を差しのべた。
 笑っているけど、嫌味な笑い方じゃない。清々しい笑顔。



 「くやしいわ。今日こそ竹子さまから一本取れると思いましたのに」



 お尻についた土を払うと、差しのべてくれた手につかまる。引き上げてもらい立ち上がると、竹子さまも頷いておっしゃった。



 「ええ。今の面はさすがにヒヤッとしたわ。
 なかなか素早かった。上達したわね」


 「上達したのではございません。昔のカンが戻ってきたのですよ。ですから次は絶対負けません」



 いけしゃあしゃあと言ってのけると、竹子さまは愉快そうに余裕の笑みを見せた。



 「年下なのに生意気ですのね。でもわたくしも、負ける訳には参りませんわ」



 向かい合い、お互いにっこり笑うと私は頭を下げる。



 「ありがとうございました!」





 郭外 新町二番丁にある穴澤流薙刀の宅稽古場では、中野竹子さまを中心に有志が集い、敵が攻めてきたときの備えとして薙刀の稽古を重ねていた。
 私もこうして、ヒマを見つけては竹子さまの稽古を受けに来ている。



 金吾さまと八郎さまが出立したあとの閏四月末、とうとう四境のあちこちで戦が始まった。

 この五月一日の白河戦では、わが奥羽同盟軍は一日に七百人もの戦死者を出して大敗した。
 今でも白河では必死の奪還戦を幾度も試みていてるという。


 そんな戦況を聞いたら、何のお役にも立てないとわかっていながらも、じっとしてなんかいられなかった。










 ※奪還(だっかん)……奪われていたものを取り戻すこと。