「そっ、そりゃそうだけど……っ」



いとも容易(たやす)く頭を下げ、自分の落ち度を詫びる喜代美に私はうろたえた。



「私のせいで、津川家の皆さまに片身のせまい思いをさせてしまいました。
まことに申し訳なく思っております」



頭を深く下げているから、喜代美がどんな顔をしているのかわからない。

発する声はいつもと変わらない穏やかなもの。



私のほうが動揺していた。



なんで?どうして?

どうして自分を侮辱(ぶじょく)する仲間を庇(かば)うような真似するの?

喜代美は腹が立たないの?

いくら自分が情けないからって、それを嘲笑う人間は悪くないっていうの?



くやしさに、また涙が出そうだ。

何に対してのものなのか、もう自分でもわからないけれど。







「……姉上」



顔をあげた喜代美が、少し困ったように瞳を滲(にじ)ませる。



瞬きもせずに彼を見つめた。

瞬きしたら、涙がこぼれそうだ。



喜代美はそっと袂(たもと)から自分の手拭いを取り出し、私に差し出してくれた。





――――喜代美は優しい。





自分を罵る相手にも優しい。



それが大きな敗北感となって、私の心に澱(よど)みを作ってゆく。










※罵る(ののしる)……非難してどなる。また、口汚く声をあげて悪口をいう。