それからほどなくして、わが藩は来る戦に備え、兵士達を国境に配備することとなった。
西軍はもはや江戸城を無血開城し、討伐の矛先を会津•庄内に向け進軍している。
わが藩の防衛上重要な経路は、白河口•日光口•越後口だった。
白河口には西郷頼母さま、日光口には山川大蔵さま、越後口には佐川官兵衛さまがそれぞれ向かわれることとなった。
そして慶応四年(1868年)閏四月十六日。
この日、喜代美のふたりの兄君と、おますちゃんの旦那さま、下平さまが配属された朱雀士中四番隊に召集がかかった。
佐川さま率いる朱雀士中四番隊は、越後方面への出陣。
金吾さまと八郎さまは、その日のうちに津川家へ挨拶に訪れた。
「いつ ご出立なされるのですか?」
「十九日の早朝です。それまでに出立の準備と親戚への挨拶まわりと……何かと慌ただしいです」
金吾さまはそう答えて苦笑する。
「まあ、ではあまり日がありませんのね。でしたらえつ子さまもご支度が大変でございましょう」
母上はそうおっしゃって嘆息する。
「頼もしいそなたらならば、きっと敵を打ち払ってくれよう。頼んだぞ」
父上は餞の言葉を贈った。
わが家でもすでに主水叔父さまが、家老•上田学太輔さまのもとで、同じく越後方面に出兵している。
次々に身内の者達が出兵していくことに、喜代美は沈鬱な思いを精一杯隠し、両兄君に微笑みかけた。
「兄上……ご武運を祈っております。けしてご無理はなさらずに。敵を討つことだけにとらわれず、御身を厭うことも忘れないで下さい」
喜代美が敵を退けるばかりでなく自身を大事にするよう伝えると、両兄君は屈託なく笑った。
「なあに、薩長ごとき奸賊どもに、わが国の地を一歩も踏ませやせぬ」
八郎さまが意気込んでおっしゃると、喜代美は口元を引き結び強く頷く。
「家のことは、どうかご心配なさらずに。私がお祖母さまや母上のご機嫌伺いに参ります」
「ああ、よろしく頼んだぞ」
金吾さまの豪快な笑顔につられて、頼りにされた嬉しさからか喜代美も頬を緩めた。
そんな兄弟のやりとりを少し悲しく眺めながら、私もおふた方に頭を下げる。
「ご武運をお祈りしております」
心からそう祈る私に目を向けた八郎さまが声をかけた。
「さよりどの……少しだけよろしいか」
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