人づてに聞いた話をそのまま私に聞かせたあと、おさきちゃんは声音を落とした。
「身内を亡くしたのはうちだけじゃないもの。
お八重さまは、兄の覚馬さまと弟の三郎さま、おふたりのお身内を失ったわ」
お八重さまの弟の三郎さまは、戦いで負傷したのちお亡くなりになり、兄の覚馬さまは薩摩藩に捕らえられ、四条河原で処刑されたと聞く。
他にも身内を失った家はたくさんある。
だから自分達だけ悲しみに暮れる訳にはいかないとおさきちゃんは微笑む。
私はそんな彼女の強がりを心配した。
けれど彼女はわざと明るい声を出す。
「そんなに心配しないで?私は大丈夫!
私より、父上や母上のほうが悲しみは深いわ。兄上は自慢の息子だったから。
私達がしっかりして、父上と母上をお慰めしなきゃね!」
(おさきちゃん……悲しみに深いも浅いもないよ)
そう言いそうになったけど、あえて口をつぐんだ。
彼女は自分にそう言い聞かせているのだと感じたから。
「……弟君は?」
私達、と言われてあの生意気な弟君のことを思い出す。
彼も兄君によく懐いていた。
きっと悲しみも深かろう。
けどおさきちゃんはゆっくり首を振る。
「雄治も大丈夫。あの子は、おゆきちゃんが支えてくれるから」
おさきちゃんは微笑んだ。
「先達てもね、おゆきちゃんがうちへ来てくれたの。
あの時は兄上の訃報が届いたばかりだったから、家族みなが塞ぎ込んでたわ。
けれどおゆきちゃんは、悲しみを必死にこらえる雄治に寄り添い、一緒に泣いてくれた……」
実は弟君を訪ねてきたおゆきちゃんの声が聞こえたので、こっそり様子を窺っていたというのだ。
そんなふたりに、彼女は慰められたという。
(ああ……そうか)
私は去年の彼岸獅子を思い起こしていた。
お互い確認してないけれど、想いあっているふたり。
おゆきちゃんならきっと、弟君の心の支えになってくれるに違いない。
「兄上を失って、これで家督を継ぐのは雄治になる。
これならおゆきちゃんを娶ることだってできるわ。
家格からしても、うちは十八石、おゆきちゃんのところは十六石と申し分ないし。
ほらね、何が起きるかわからないものでしょう?」
おさきちゃんはいたずらっぽく笑う。
でも私は全然笑えなかった。
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