この空を羽ばたく鳥のように。




 「ほう」と、八郎さまは神妙な顔つきで話を聞いている。
 照れ臭さを隠すように、私は彼に笑いかけた。



 「八郎さま。喜代美も八郎さまを羨んでおりましたよ」



 八郎さまは驚く。



 「喜代美が……私をですか?」

 「はい。去年の冬、初めて金吾さまとあなたさまが屋敷においでになられたおり、喜代美は落ち込んでおりました。
 “私が八郎兄のような頼もしい好漢(こうかん)だったならば、父上をもっと喜ばせてあげられたでしょうに”―――喜代美はそう申しておりましたよ」



 その時の喜代美を思い出すと、ふふっと笑みがこぼれる。


 だからこそ喜代美は努力を続けている。
 津川家の祖先にならい立派な忠臣となるために、主君への忠節をよりいっそう深め、いつかお役に立つために。
 その日を心待ちにして、日々勉学に励んでいる。

 そして頼もしくなるために、武芸や身体を(きた)えることも欠かさない。


 そんな喜代美を見ているから、私もがんばろうと思った。


 好きなことばかりを一心にするのではなく、苦手な針仕事もすすんでするようになったし、お料理も適当じゃなしに母上に教えてもらい、作れる品も増えてきた。



 「喜代美は頑張っておりますよ。八郎さまのようになりたくて」



 八郎さまは私を見つめ、そして観念したように眉を下げた。



 「喜代美が、大事なのですね」



 思わぬことを言われ、私の顔が熱を帯びる。



 「……そっ、そりゃもちろん!喜代美は高橋家からいただいた、大切な跡取りですから!」



 火照った頰を隠すように顔をそらせて言うと、八郎さまもはにかんでおっしゃった。



 「あきらめてしまえば楽になるが、きっと後悔は残るだろう……。
 それならば、(むく)われる日を信じて努力を続けたほうがいいと、さよりどのはそうおっしゃりたいのですね」

 「はい。仰せの通りでございます」

 「なるほど。たしかに今わが会津は、京の都で大変な思いをしている。
 泰平の世ならそうは参りませんが、今なら私がお役に立てることもあるかもしれませんね」



 「はい」と私は強く頷く。



 「ならば私も頑張ってみよう。いつか報われる日を信じて」



 八郎さまは清々(すがすが)しく笑うと、また空を仰いだ。










 ※好漢(こうかん)……好ましい感じの男性。