「な……生意気に、意見など申してしまいました。
おかげで両親にこっぴどく叱られました」
すると八郎さまは愉快そうに声をたてて笑う。
「それはすごい!あの母に意見など、私にはとてもできませんよ!」
「はあ……お恥ずかしい限りです」
顔が熱くなってくる。八郎さまに見られたくなくて、それとなく顔を庭に向けた。
それでもちらりと八郎さまを窺うと、彼は優しい目を向け微笑んでいる。
そのまなざしはやっぱり喜代美と似ていて……。
「意見を申したのは、喜代美のためですね」
穏やかに問われて、私はためらいがちに頷く。
「……喜代美が 羨ましい」
視線をそらせて、八郎さまはつぶやいた。
言葉の中に一抹の寂しさが滲んでいる気がして、彼の横顔を見つめる。
ついこぼしてしまった本音に面映ゆい表情を浮かべながらも、八郎さまは続けた。
「同じ血を分けた兄弟でも、弟の喜代美はこの家の跡継ぎとして必要とされ、将来も約束されている。
だが兄の私は、この先も部屋住みのままの日陰の身です。
誰にも必要とされず、この身を役立てる当てもない」
歯痒い思いに言葉を切ると、八郎さまは空を仰ぐ。
黙ってそんな彼を見つめる。
――――八郎さまもまた、私と同じように、己の身の虚しさを感じているのだろうか。
八郎さまの境遇を考えると、複雑な気持ちになる。
誠八さまの長子として生まれながらも、金吾さまがおられるために、次男の位置に甘んじなければならない彼の気持ちは、いったいどれほどのものなのか。
喜代美のように養子としてどこかに望まれるならいいけど、きっと父君も、唯一残った自身の血を受け継ぐ我が子を、みすみす手放したくないのだろう。
けれどその父君の思いが、八郎さまを苦しめる。
「父上もいっそ私を、どこかの養子に出してくださればよいのに。
いや……この家で養子に迎えられたのが、私だったらよかったのに。
そう思うと、残念でなりません」
八郎さまの視線が空から地に落ちる。
口の端に自嘲の笑みを滲ませて。
※一抹……ほんの少し。わずか。
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