この空を羽ばたく鳥のように。




 喜代美はなぜか感動したような面持ちで、私を上から下へと眺める。



 「ああ……姉上の中には、その立派な祖先の血が受け継がれているのですね!」



 そう言って、いつものまなざしに敬慕を込めた視線で見つめてくるから、なんだか恥ずかしくなってしまう。


 その笑顔が……まともに見れない。


 だって私自身は、そんなたいそうなものではないもの。
 それなのに喜代美が、まるでかけがえのない宝を見つけたかのようなまなざしを向けるから、居心地悪いというか、胸中が落ち着かないのだ。


 書庫の奥から、父上の声がする。



 「おおい、誰か。ちょっとこっちへ来て、手を貸してくれんか」

 「はい、ただいま」

 「あ、いいです。私が行きます」



 すかさず応えて向かおうとする源太をやんわりと制して、喜代美は私の手を離すと奥へ姿を消した。



 (……あの様子じゃあ、絶対いまの話で父上や叔父さまと盛り上がりそうね)



 「掃除はきっと進まないわね」と ため息をつきつつつぶやくと、縁側に置かれたままの古い系譜の小冊子を取りあげ、それを軽く叩いて埃を取り払った。





 その日 夜遅くまで、喜代美をはじめ父上や主水叔父さま、源太や弥助まで入って祖先の語らいに盛り上がりを見せ、書庫の掃除が(とどこお)ってしまったことは言うまでもない。








 ※敬慕(けいぼ)……尊敬して、したうこと。

 ※系譜(けいふ)……血族関係のつながり。また、それを書き表したもの。系図。