えつ子さまはまっすぐ母上を見据える。
そのまなざしは鋭く厳しく重圧感があり、相手を黙らせるには十分すぎるほどの威力があった。
そういえば以前、喜代美に真顔で見つめられた時も、その眼光の鋭さに怯えたものだった。
あれも母親ゆずりだったのかと変に納得しながら息を呑むと、えつ子さまはおっしゃった。
「奥さま、どうぞ奥さまからもあの子を厳しく叱ってやってくださいまし。
今のままでは喜代美どのは、とても津川の当主を担う器にはなれませんわ。
それでは津川家の皆さまにもご迷惑をおかけしてしまいます」
「……かしこまりましたわ。喜代美さんが戻ったら、ようく言って聞かせます」
すっかり気圧されて、母上はしぶしぶ頷く。
これじゃあまるで、我が家での教育が甘いと言われているようなものなのに。
母上の承諾に満足したように頷くと、えつ子さまは今度は私に向き直った。
「さよりさん。あの子は帰省すると、よくあなたのことを話すの。
聞けば喜代美どのは、いつもあなたに厳しく叱られているのだとか。
今回のことも、これだけご両親に心配をかけたのですから、さよりさんからも特に厳しく叱ってやってくださいな。
あなたに言われたのなら、喜代美どのもきっと素直に言うことを聞き入れましょう」
有無を言わせぬ圧力で見据えながら、私に同意を求めてくる。
「………」
しばし目を伏せた。けれど再び目を上げた時には、私の胸にははっきりとした意思があった。
「……お言葉ですが」
私もえつ子さまをまっすぐ見つめて口を開く。
「喜代美は十分、自分の立場をわきまえております。
私は喜代美のしたことが、すべて悪いことだとは思えません」
※わきまえる……正しく判断して違いを見分ける。また、そのようにして物事にきちんと対処する。心得る。
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