どう弁明しようかと言葉を探していると、代わりにえつ子さまが眉をひそめて口を開いた。
「……どうやらあの子は己の過ちを隠すため、奥さまに偽りを申したようですね」
嘆かわしいとばかりに深く嘆息するえつ子さまに、私は思わずかぶりを振って膝を乗りだした。
「違います!偽りを申したのは私でございます!喜代美は何も申しておりません!
喜代美はケガのいきさつを申せば、両親に要らぬ心配をかけると思ったのです!
思い悩んだあの子を見兼ねて、私が代わりに偽りを申しました!」
「まあ……!」
反論してなかばヤケクソに言ってのけると、えつ子さまと母上は呆れたような声を漏らす。
「けれどあの子は異を唱えなかったのでしょう。
それでは偽りを申したことと変わりないのではないかしら」
質すように指摘されると、その言い分はもっともで口をつぐんでしまう。
そんな私とえつ子さまの顔を見比べていた母上が、眉根を寄せて口を開いた。
「……どうやら話が見えないのは私だけのようですね。
えつ子さま、何があったのか聞かせていただけますね」
ひとり腑に落ちない母上が怒りを抑えるように静かに問い質すと、えつ子さまは頷き、母上に身体を向き直して姿勢を正してから事の顛末を語りだした。
――――えつ子さまのお話を聞く限りでは、昨日喜代美が話してくれた内容と大差なかった。
ただ えつ子さまが語る野良犬は、とても大きなブチ犬で、見るからに獰猛そうだったという。
そんな大きな野良犬に噛まれた傷の出血はおびただしく、えつ子さまはひどく狼狽した。
なのに喜代美は痛がる様子もなく、あわてふためくご母堂の目の前で、なんと一番出血のひどい拇指球の傷口の肉を噛みちぎって吐き捨て、
「これで犬の毒が身体に回ることはありません。ですから母上、心配なさらないで下さい」
と、にっこり笑って言ってのけたというのだ。
話を聞かされた母上は、青ざめて愕然としていた。
もちろん私も驚きのあまり言葉がでない。
手当てをするために傷口を見たとき、たしかに拇指球の皮膚が食いちぎられ、肉が見えていた。
あれは喜代美自身がやったことなのかと思うと背筋がゾッとした。
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