勝手に出しゃばって叱られた私に、斜向かいの膳に着く喜代美は申し訳なさそうな視線を向けてくる。
父上は訝りながら喜代美を見遣った。
「まことか、喜代美」
「……申し訳ございませぬ」
念を押す父上に、喜代美は目を伏せてそれだけ答えた。
「ふむ……次からは気をつけるのだぞ」
訝しげな表情は消えなかったが、幸い父上から深く追及されることはなく、その場を切り抜けられたことに私はこっそりと胸を撫で下ろした。
喜代美もきっと同じだったに違いない。
夕餉を食べ終えると、喜代美は早々に部屋へと姿を消した。
私も喜代美が休む前に、摘み取っていた葉で作った薬を貼り替えようと、夕餉の後片づけを急いで済ませ、彼の部屋に向かう。
「喜代美。ちょっといい?」
声をかけてから襖を開けると、眠ってはいなかったもののすでに床に入っていた身体を起こして、喜代美は戸惑うような視線を向ける。
「どうされましたか」
「うん、ごめんね。夜になると傷口が熱を持つんじゃないかと思って。薬だけ貼り替えにきたの」
私は布団の脇に座ると、喜代美の右手を取る。
その手が熱い。
やっぱりと思いながら喜代美の顔を見ると、いくらか赤い頬をしながらも、彼はいつものように穏やかな笑みを返す。
その微笑が心なしかつらそうだ。
「……痛む?」
「いいえ、ちっとも。これくらいの傷、何ともありませんよ」
強がりなのか心配する私を気遣ってか、そんなふうに言う。
私は薬と包帯を手早く替えると、医者から貰ってきた薬で煎じた薬湯をしぶる喜代美に無理やり飲ませた。
それでも心配で立ち去り難く座り続けていると、喜代美は柔らかく目を細める。
「さより姉上。私のことは心配なさらずに。姉上もお休みになられてください」
優しい声音で促され、(そうよね、私がいたら喜代美が休めないわ) と思い直して、ようよう腰を上げることにした。
「さより姉上。ありがとうございます」
部屋を出ようと襖を開けたときに礼を言われ、それに「ゆっくり休むのよ」と返した。
あとは喜代美の傷が癒えればそれでよし―――と、私はすっかりそう思い込んでいた。
しかし、事はそれで済んだ訳ではなかったのだ。
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