この空を羽ばたく鳥のように。





 喜代美が自室に戻ったあと、私は母上に気づかれないよう、こっそり下男の弥助を呼んで、医者から化膿止めと解熱剤をもらってくるように頼んだ。

 それから私も外に出て、近くの道ばたを探しながら歩いて回る。



 (野良犬に噛まれたのなら、傷は毒がまわってこれから膿むだろう)



 傷口だって、縫わなきゃいけないんじゃないかと思うくらいに開いて肉が見えていたというのに、
 それでも医者など要りませんと(かたく)なに拒むのだから呆れてしまう。



 「あ、あった」



 道ばたに今が盛りとばかりに濃紫色の花を咲かせるスミレを見つけて、その青々とした葉を摘み取る。

 この生葉をすりつぶし、ご飯と酢を混ぜて練り合わせれば、膿を吸い取ってくれるよい薬となる。

 それに干した葉を煎じて飲ませれば、炎症をおさえて解熱効果も期待できるはず。



 (喜代美の傷が少しでも早く良くなるように)



 そう思いながら、葉を多めに摘み取り家に戻った。



 夕餉で皆が集まったおりに、やはり喜代美の傷は両親の目に止まった。



 「喜代美。その手はどうした」



 案の定 膳に着いた父上が、喜代美の包帯の巻かれた右手を見つめて(ただ)した。



 「これは……その」



 言いよどむ喜代美の代わりに、とっさに言葉を継ぐ。



 「参詣の帰り道で、転んで()ったのですって!
 まったく!ほんとドジよねえ!?」


 「これ!さより!」



 わざと悪く言うと、それを見兼ねた母上に叱られてしまい、私は肩をすくめた。



 (だって……喜代美に嘘はつかせたくない)



 きっと喜代美は両親に要らぬ心配をさせたくなくて、嘘をつくと思うから。

 嘘をついたら、喜代美は明日『什の集会』で掟に背いたことを打ち明け、自ら罰を受けるだろう。



 そんなことさせたくない。
 だったら私が嘘をついたほうがいい。