自分で言っておいて何だけど、思わず嘆息してしまう。
(そこまで納得されると、こっちが呆れるんだけど)
まあたとえ内心どう思おうが、喜代美は絶対相手を馬鹿にするような真似はしない。
しかしいつもながらに思うけど、生き物が絡むと喜代美はたちまち無邪気な子どもに戻る。
「さより姉上!姉上なら、何に生まれ変わりたいと望まれますか?」
ふいに笑顔で覗き込まれ、焦った私は曖昧に返す。
「私は……私は、何でもいいや」
「えっ、夢がありませんね」
「ほっといてよ」
大げさに驚く喜代美をジロリと睨みつける。
けれど彼は怯みもせず、名案が浮かんだとばかりに目を輝かせた。
「ならば姉上も、同じ白鳥にいたしましょう!そうすれば “一緒に海を見に行く” 約束も果たせるではありませんか!」
「はあ!? あんた、約束を来世まで持ち越す気!?」
思わず突っ込むと、喜代美は弾けたように笑った。
――――その笑顔も 声も 身体つきも、少しずつ男らしくなってきていることに、本当はとっくに気づいてた。
けれど、素知らぬふりをしていたの。
喜代美が優しくしてくれるたび、私のことで一生懸命になるたび、勘違いしてしまいそうになるから。
だから無理だと分かっていても、喜代美には無邪気な子どものままでいてほしいの。
…………なんでもいいよ。
生まれ変わるものなんて、何だってかまわない。
ただ 生まれ変わっても、また喜代美と同じ景色を見ていたい。
「……喜代美。八郎さまからうかがったのよ?
あんた実家で私のことを、普段はとても地味だと申したそうね」
遠慮なく笑う喜代美をちらりと見遣りながら言ってやると、彼は急にゴホッと咳き込む。
「えっ……あっ、あれはですねっ!金吾兄上があまりにも、姉上の着飾った外見ばかりを褒めるものですから、
姉上の良さは内面にあるのですよと申したかったのです!」
「……ぷっ」
顔を真っ赤にしてあわてて弁解するから、今度はこっちが吹き出してしまう。
「冗談よ、怒ってないって!」
笑いながら言うと、喜代美は大きく瞬きを繰り返す。
「あ、よかった……」
つぶやいて頬を染めたまま、喜代美は困ったようにうなじを掻いた。
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