この空を羽ばたく鳥のように。





 「あっ……!!」



 私と母上とみどり姉さまは仰天した。



 「き、喜代美さん!? それは……ええと、そう……失敗作なのよ!?」



 母上はあわてて止めようとする。
 ひどい言われ様だが、まさにその通りなので口には出さない。

 しかし喜代美は聞こえないふりで、自分の小皿にいびつなぼたもちを乗せると、手早く半分に切ってその片方を口に入れた。

 母上やみどり姉さまはもちろん、私も唖然とする。

 どうせ私が食べるからいいやと、濡れ布巾もかけずに放置していたから、餡の一部が乾燥して変色したような見た目もちょっと……な、ぼたもちだったのに。

 喜代美は平然と食べきり笑顔を見せた。



 「ああ、母上の味ですね!私にはやはりこれが一番です!」



 満足そうに言うと、またいびつなぼたもちを箸で取り上げ、今度は私の小皿にわざわざ乗せてくれる。



 「美味しいですよ!ほら、さより姉上も召し上がってみて下さい」



 にこにこ笑顔で言われ、内心「げっ」と思い 口元をひきつらせながらも、
 「い、いただくわ……」と、それを小さく切って口に運ぶ。



 「ね、美味しいでしょう?」



 たしかにもち米の固さや餡の塩加減などは、しっかり母上の監督下で作ったから不味いということはない。
 しかし放置していたため餡が固くなり、舌触りが悪くなったことは否めない。

 それなのに喜代美は、残りのいびつなぼたもちもすべて平らげたうえで、母上のぼたもちとご実家のぼたもちにも箸をつけることを忘れなかった。

 その細い身体のどこにそんなに入るのかというほどの食べっぷりを見せて、喜代美は母上を喜ばせた。



 「食べ盛りですものね!そんなにお腹が空いていたのなら、早めに夕餉にしましょうか?」



 母上がおっしゃると、喜代美は苦笑を見せる。



 「いえ、もう満腹です。ご馳走さまでした。
 夕餉は急がなくていいですよ。少し腹ごなししてきます」



 そう言って立ち上がると、喜代美は自室へと向かう。



 (……無理しちゃって)



 その背中を見送ると、すっかり空になった皿を見つめる。



 (なにも全部食べることないのにさ)



 後片づけをしながらも、心の中が妙にくすぐったい。

 喜代美は私がこさえたものだと承知して、残さず食べてくれたんだ。