綾乃と大輝は、昨日、
「悩んでるんなら頼ってほしい。そうしてくれたら嬉しい」
って言ってくれたけど、当の本人にだけは、そんなこと言えるわけないでしょ?
要にだけは、知られたくないの。知られちゃいけないの。
……そんな寂しそうにしないでよ。期待しちゃうじゃんか。すぐに砕けるって、わかってるのに。
ほら、今だって。
さっきまで、私のことで少しだけシュンとしてたのに、要は廊下に花宮さんを見つけて、花宮さんを眺めるんだ。
私なんて、まるで最初からいなかったみたいに。
朝は憂鬱だ。
HRまで、廊下にいる花宮さんを眺める要が、目に入るから。
要が花宮さんのことを好きって、知るまでは、この時間が一番楽しかったのに。
要と、くだらないことを話したり、ふざけ合ったりして、楽しかったのに。
一気に地獄の時間になってるってことを、要は知らない。
要には、秘密にしていることが増えた。
要は、なにも知らない。
なにも───知るはずがない。
「───か、──奈々佳、おはよう!」
「綾乃……」
「奈々佳、またボーッとしてたけど」
そっか。きっと、要のことを見てたんだ……。
見たくなかったはずなのに。
どうして私は、要のことを目で追ってるんだろう。



