フルール・マリエ



山口様が帰った後、私は大急ぎで3人を迎える準備に入った。

元々用意していた衣装ではなく、別の衣装を用意しておくつもりだった。

上手くいくかは正直わからないが、新郎の話を聞いて、思い当たる衣装があった。

せめて、この衣装が新婦とお母さんの希望を叶えるきっかけを与えてくれたらと思う。

「誰もいないからといって慌ただしい動作をするのは、美しくありませんね」

和室の一角で作業をしていると、真田さんが厳しい目を向けていた。

「店内では見られていない時でも、自分の言動には配慮するように」

「し、失礼しました」

久しぶりに2人の状態で会話をしたことに、少し焦りながらも、慌てて頭を下げる。

「お客様が喜んで頂ける良い案が思いついたようですね」

「自信は、あまり無いんです。ただ、見て頂きたい衣装があったので、準備しました」

私の準備した衣装を真田さんが見つめると、ひとつ頷いて私に向き直る。

「朝見さんが自信を持って衣装をお出しできなければ、その衣装の輝きも半減しますよ」

用意した衣装を見下ろし、その美しい色合いと柄の絶妙な組み合わせに見惚れてしまいそうになる。

私がお客様に提案する衣装はどれもお客様に似合うと思った最高の衣装ばかりだ。

この衣装も、いつものように最高の1着としてお客様にお出しするんだ。

「すみません。少し落ち着きます」

「それがいいと思います。朝見さんが、いつものようにお客様を迎えるのなら、私に不安はありませんから」

表情の乏しい顔に、最後は春の風が吹いたような優しい笑みが浮かべられ、お礼も言い忘れた状態で見惚れてしまった。

反則技を受けたものの、私は気を取り直して山口様を迎える準備を再開した。