「そんなこともあって、結婚式はあまり良い思い出ではなくなってしまったようです。そんな思いを僕達にもさせたくない、と周りにとやかく言われないようにアドバイスをくれているつもりなんです」
息子夫婦を思うあまりの行動だったとは、全く想像できていなかったことに気づかされる。
新郎新婦だけではなく、そのご家族にも寄り添う事が足りていなかったように思う。
「春菜にもこのことを話してしまったので、母のことを尊重してくれているんです。母のことを思ってくれて嬉しいんですけど、複雑で。神前式の提案も最初は母からで、それは春菜も人前でキスするのを恥ずかしがってたので良かったみたいなんですけど、着物は赤がいいようなんです。春菜、言わないですけど、携帯で検索しているのが見えて、それが赤ばかりでした」
やはり、新婦の思いもお母さんの思いも叶えた衣装を選んであげたい、と改めて思う。
「母には春菜の意見も聞くよう話はしましたが、母もやはり心配なようで、突然口を噤まないと思うんです。解決策も思い浮かばない状態で話してしまって申し訳無いのですが、どうか、2人が納得のいく衣装を見つけて頂きたいんです」
新郎は深々と頭を下げて、もう一度すみません、と謝った。
「頭を上げてください」
慌てて声をかけると、新郎は遠慮がちに頭を上げた。
私は新郎に不安を抱かせないように、いつもお客様に向けている笑顔で返す。
「新郎新婦様とそのご家族が、素晴らしい1日を迎えられる1着を選ばせて頂きますね」
新郎の顔が顔を上げた直後より和らいだように感じる。
新郎は深々とお辞儀をして、一旦店を後にした。

