フルール・マリエ



「昔のクラスメイトがいたら気になるに決まってるでしょ?千紘もきっとそう。目を覚ました方がいいよ」

顔のすぐ横の壁に勢い良く千紘の手がつかれて、私を見下ろす形に姿勢を変えた。

驚いて千紘を見上げると、今までに見た事ないくらい怖い顔をしていた。

「怒るって言ったよね。聖の気持ちはわかったけど、俺の気持ちは錯覚とかじゃないから。勝手な解釈しないで」

「わ、わかったから、離れて。近い」

視線を背けると、千紘も静かに体を引いた。

「車、回してくるよ。連絡するから、ここで待ってて」

歩ける距離ではあると思ったけど、1人になりたかったから、千紘の厚意に甘えて頷いた。

千紘がどんな顔をしていたのか見る事ができなかったけど、遠退いていく足音に虚しさを感じたのは私の心の中を表しているだけなんだろう。

私の判断は間違っていない。

千紘の事を考えて、自分の感情がコントロールできなくなったり、振り回されたりすることが怖かった。

これからも千紘と働いて行くことになるのなら、仕事にも支障が出てしまうかもしれない。

恋愛経験は多くは無いけど、自分をコントロールできないことはなかったし、一緒にいると安心感があった。

それらの経験とは全く違う千紘との関係を深める事がひどく怖くて、千紘を怒らせてしまったけど、これで明日からまた平穏な日々に戻れるだろうと思った。