フルール・マリエ



「すみません。彼、最近忙しくなっちゃって。今日も朝から出勤することになっていたのを、予定つけて来てくれたんです」

「そうだったんですか。もし、予定が合わない場合にはご連絡頂ければ後日お越し頂くことも可能ですよ」

「休みも変動的になってて、延期しても来られるかどうか・・・」

フルール・マリエは完全予約制で1組にかける時間は約2時間。

次のお客様をお待たせしないように、コーディネーターはもちろん、お客様にも時間厳守をお願いしている。

2回目以降、お客様が来店する前にコーディネーターは、いくつかドレスを選び、新郎新婦から得た情報を頭に入れてお迎えする。

飛び込みで来られる場合には、そういった対応が行き届かないため、予約無しでの来店は遠慮して頂いていた。

「あ、でも。朝見さんが一緒に考えてくれるんですよね?」

「もちろんです」

「このドレス、とても素敵なので、写真を撮ってもらえますか?」

「喜んで」

試着室を出ると、隣の打ち合わせスペースから女性の感嘆の声があがる。

「恥ずかしいけど、誰かが見てくれると嬉しいですね」

小さく「素敵」と隣の方が呟いた言葉が聞こえたのかもしれない。

試着室も打ち合わせスペースも他のお客様が見える状態にしている理由には、もう1つある。

お気に入りのドレスを着た女性は、それを見てもらいたいと思うものだ。

そして新婦が1番見てもらいたいのは、新郎なのに。

試着室を出た瞬間に、1番最初に真正面から新婦の姿を見られる席に新郎の席があるのだが、そこは空席だ。