フルール・マリエ



「聖は俺に会いたくなかった?」

赤信号で車が停止するとエンジン音も自然と止まり、静寂な車内に千紘の硬い声が響く。

「会いたいとか会いたくないとか、そういう感情は持ってなかった」

「俺のこと、忘れてたから?」

「忘れようとしてた。さっきも言ったけど、千紘のことを思い出すと邪な気持ちが自分にあったことまで一緒に思い出すことになるから」

「今も思い出す?」

「少しは。でも、千紘がwin-winって言ってくれたから、気持ちは楽になった」

「じゃあ、カミングアウトして良かったわけだ」

信号が青になったのと同時にエンジンがかかり、座席の下から振動が伝わって来て、時間の流れが早くなった気がした。

「再会って形だけど、昔の千紘よりもを今の俺を見てほしい。俺だって、昔のことはあまり人に話したくない」

「支配人だもんね。私だったら昔の友達に言いふらしたくなる」

千紘は微苦笑して「共感しないなぁ」と呟いた。

支配人という肩書きにもまだ満足できていないのかもしれない。