奥にしまい込んでいた思い出したくない感情が今になって和らいだ気がした。
おかしな巡り合わせだ。
幼い頃に時間を共にした人と、時を経てまた交わった時間の中にいるのだから。
パスタとデザートを食べ終えて、会計をしようとする千紘に自分の分のお金を渡そうとしたが断固として受け取らなかった。
「聖の記憶を男らしい俺に塗り替えるっていう野望が俺にはあるから、もらえない」
謎の野望に阻まれ、私は財布を鞄に戻しながらお礼を言って大人しく奢られることにした。
店を出て、車は私が見たこともない道を進んで行く。
私の知らない道を何の迷いもなく運転する千紘が突然頼もしく見えた。
当たり前だけど、いつまでも弱い千紘のままでいるはずがない。
男らしく低い声で、私よりも遥かに大きな肩幅と無骨な手。
幼い頃のクラスメイトと思うより、フルール・マリエの支配人である真田千紘と同じ空間にいるのだと思う方がしっくりくる。
「私が気づかないなら、そのままでいいとは思わなかった?」
「何で?」
「私だったら、きっと知らないふりをする」
再会した相手との思い出が綺麗なものなら昔話に花を咲かせたいと思うだろう。
けれど、思い出したくない記憶まで連れてくるなら、そして相手が自分のことを忘れているのなら、そっとしておくに違いない。

