フルール・マリエ



「童話に出てくるお姫様が大好きだったの。優美で煌びやかなドレスを着たお姫様」

特別な日にドレスを着させてもらえると、嬉しくて嬉しくてドレスを着たまま寝たいのだと駄々をこねたこともある。

女の子にとってドレスは、とっておきの変身アイテム。

着るだけで幸せな気持ちになってしまうものだ。

「思ったより可愛い動機で驚いた」

「馬鹿にしてる?」

「可愛いは褒め言葉だろ。それに、ちょっと罪悪感」

「罪悪感?」

運ばれてきた前菜に口をつけると、新鮮な野菜のシャキシャキとした感触と甘酸っぱいソースが口の中に広がった。

「聖はもっと女の子らしくいたかったんじゃないかなって思ったら、ちょっと罪悪感」

千紘は長い指でフォークを掴んで、綺麗な所作でサラダを口に運ぶ。

「結構心残りがあったんだ。俺がいたせいで聖は聖らしくいられなかったんじゃないかって」

「そんなこと思ってたの?」

「割と本気で。男としては恥ずかしい過去だよ」

「私にとっても恥ずかしい過去だから、もう話すのやめようよ」

「何で?人の為に行動できる聖に俺は憧れてたよ」

空になったお皿が下げられ、代わりに置かれたオニオンスープが甘い香りを漂わせる。