フルール・マリエの契約駐車場の隅に停められていた黒のSUV車の助手席に座ると、革張りの滑らかさが伝わってきた。
車内には軽やかな甘い香りが漂っていて、さりげないその香りが自分と交わる。
少し緊張していると、真田さんは慣れた手つきで車を発進させた。
「何、食いたい?」
砕けた口調は真田さんではなくて元同級生の千紘として話しかけたつもりなのだろう。
あまりにも突然の変わり身に戸惑いながらも、今まで感じていた緊張感からはいくらか解放された。
「約束していた人とは何を食べる予定だったの?」
「フレンチのコース」
「もしかして、かなり偉い人?」
「違うよ。この前見合いした相手」
「み、見合い?結婚するの?」
淡々と語る口調からは何の感情も感じ取れない。
思わず声を上げてしまったけど、30歳を目前にしてお見合いなど、さほど驚くようなことではないのかもしれないが、この顔ならばお見合いせずとも道路を歩いている女性だって結婚相手候補に名を挙げる。

