フルール・マリエ



「仕事をするなとは言いません。ただし、私に申請をしてください」

「仕事じゃないです」

真田さんは盛大に溜息をつき、苛立った様子で前髪を掻き上げた。

「もういいです。今、ここで見てください」

「真田さんは帰られるんですよね?」

真田さんが出社している場合は支配人が最後に店の鍵をかけるルールなので、私はこのカタログを持って帰ろうとしていたのだ。

「30分です。私はその間仕事をしています」

真田さんは奥の机に鞄を置き、出口へと向かう。

「すみません。ありがとうございます」

「お客様のためなら許します」

真田さんはそう言って一度部屋を出て行ったので、私も慌てて座り直し、机の上にカタログを広げた。


新作のドレスはどれも華やかで見惚れてしまうものばかりだった。

定期的に新作ドレスが発表され、系列店に卸されたりするので、運が良ければ新作をすぐに回してもらえたりすることがある。

三原様が要望する、会場にマッチしながらもサプライズ感のあるドレスは本当に無いのだろうか、とカタログをめくる手に力が入る。

こんな決定のギリギリに新しいドレスを持ってくるなんてことはできればやりたくない。

新たな選択肢を増やすだけで悩ませてしまうかもしれないリスクは秘めているのだ。

けれど、何もしないで三原様が一週間後に来店するのをただ待ちたくもない。

最後まで三原様に寄り添って、ドレス選びをしたい。