フルール・マリエ



白いバラを千紘は見つめたまま、硬直している。

千紘は私が答えるまでの間、これ以上の緊張感と不安に耐えていたんだ。

「聖・・・。ありがとう」

見惚れるほどに綺麗な笑みで、ブートニアを受け取った千紘は自分の胸ポケットに入れた。

「でもね、聖。何か勘違いしてるみたい」

「え?」

「海外に行くの?聖」

「え?海外に行くのは千紘でしょう?」

話が全く噛み合っていないことを理解して、こういうことになった経緯を話すと、千紘はくすくすと笑った。

「確かに、海外支店の話は出てるけど、行くのは俺じゃないよ。名前が挙がったこともあるらしいけどね」

「そう、なんだ。最近本社に行くからその話なのかと」

「あ、でも異動にはなりそうなんだ。本社に戻るかもしれない。それで、いろいろと本社に用ができてたんだ」

「そういう、こと・・・」

安堵と疲れで一気に力が抜けていく。

力を失ったその体を千紘が優しく包み込んでくれた。

「俺は嬉しいよ。海外について行ってもいいって思ってくれたんでしょ?」

「うん。いつ帰って来るかわからないなんて、辛すぎる」

「聖にとっては災難な噂だったけど、聖の気持ちが聞けて良かった。俺は聖が幸せになれるように考えるから心配しないで。俺の感情だけで海外について来て、とか仕事辞めて、とか言わない。聖が今の仕事が好きなの知ってるよ」

トクトクと千紘の鼓動が私の体に響いてくる。

伝わってくる千紘の体温と匂いに包まれて、溶け込むような安心が体を満たす。