「あら、溜息?ダメよー、お客様がまだ店内にいらっしゃるんだから」
通りかかった冴羽さんに見つかり、背筋をピン、と伸ばす。
本日の私の最後のお客様は神崎様で、冴羽さんも本日の接客は終わったようで、2人して事務所に戻って、コーヒーを入れて一旦休憩する。
最後のお客様を送ったら、閉店作業に入る。
「新郎様、来られなかったの?」
「はい、今は多忙な時期のようで、なかなかタイミングが合わないそうです」
「まぁ、仕方ないわよねぇ。私だって、お客様がこの日しかダメなんだ、って言われたら休日返上しても出社しちゃうもん」
カップの中のコーヒーを念入りに冷まして、唇をつける。
私が新郎に連絡を取ることなど許されない。
もどかしいけれど、新郎がこない以上、私には新婦を励ますことしかできないのだ。
「冴羽さんの結婚式の時には旦那さん、どういう関わり方をしてくれたんですか?」
「うわ、それ聞く?」
「え、まずかったですか?」
「言ったでしょ?お客様がいるなら休日返上する、って。その通りのことをやったのよ」
あまり思い出したくないことだったのだろうか。
けれど、冴羽さんはカップを両手で包みながら、フッと口元が緩めた。
「でも、おかげで私にはやっぱりこの人しかいない、って思ったわ」
「どうしてですか?」

