フルール・マリエ



しかし、新郎がやってくることはなかった。

試着の途中で新婦の携帯に連絡があり、トラブルで来られないとのことだった。

「仕方ないんです。行けないかもしれない、と言っていたので。それもあって、ここに来た時に不安が大きかったんだと思います」

ドレスは結婚式の印象を決める大事な衣装だ。

自分のお気に入りを着たい、と思う一方でご列席する皆さんがどういう反応をするのかも気になることだろう。

「でも、朝見さんが私のイメージ通りのドレスを用意してくれていて、隆之君に相談するより朝見さんの方が頼りになるかも、なんて」

上目遣いで肩を竦め、秘密にしてください、と可愛らしい仕草でお願いされるまでもなく、お客様との会話は他言しない。

「光栄です」

「あ、でも、隆之君ともちゃんと話してきます。タキシードだって合わせないと、ですよね?」

「ええ。次のご来店の際には新郎様の衣装合わせと、新婦様もウェディングドレスを試着して頂きます」

「私、ウェディングドレスの方はエンパイアラインがいいな、って思ってるんです」

ガーデンウェディングが流行るようになってから一気に人気になった、細身のラインでスカートの広がりが少なく、ナチュラルで大人の印象を与えるエンパイアライン。

「承知しました。ご用意しておきます」

プリンセスラインも可愛いらしい雰囲気の神崎様には良くお似合いだが、エンパイアラインもきっと似合うだろうと思った。

笑顔でおかえりになる神崎様をお見送りすると、小さく息を吐いて胸をなで下ろす。