「どうした? そんな必死な顔して」

「大事なお話しがあります」

「大事な話し?」


私の切羽詰まった表情を見て何かを感じたのか、並木主任の顔から笑顔が消え、車の中で聞くと社用車を指差す。


社用車に同乗して一緒に出勤するは抵抗があった。でも、ここで話していたら遅刻してしまう。迷っている暇などなかった。自ら進んで助手席に乗り込み、大嶋常務が私に言ったこと、そして悪い噂が流れていることを説明する。


さすがに並木主任もショックを受けているだろうと思ったのに、彼は特に焦った様子もなく飄々としていた。そしてハンドルを切りながら薄っすら笑みを浮かべ、まるで他人事のように呟く。


「ほーっ、俺が情報漏洩の犯人にされているのか~」

「心配じゃないんですか? 会社の皆に疑われているんですよ!」


私の方がムキになって怒鳴ると、チラッとこちらに視線を向け「お前も疑っているのか?」って聞いてきた。


「えっ……あ、私は疑ってなんかいません。並木主任のこと信じてますよ」

「なら、それでいいじゃないか」

「はぁ?」

「会社の連中にどう思われようが構わない。俺はお前が信じてくれていれば、それでいい」


えっ……今の何? かなりの意味深発言……だよね?


並木主任の思わぬ発言に面食らって運転している彼の横顔をマジマジと見つめる。そしてその言葉の意味を聞こうとした時にはもう、車は会社の駐車場に停車していた。