――翌日の朝、見事に寝坊した私は朝食もそこそこに速足で玄関に向かう。
寝坊の理由は……並木主任だ。彼のことを考えていたら朝方まで眠れなかった。
唯に言われ、昨夜のうちに並木主任に情報漏洩の件を伝えようと思っていたのに、よくよく考えてみれば、私は彼の携帯番号を知らない。で、結局、伝えることができなかったんだ。
そしてもうひとつ。私の睡眠を妨げていたのは……
今頃、遠く離れた東京で並木主任と彼女が何をしていのるか……それを想像しただけで、今まで経験したことのない不快な感情が胸を締め付ける。
……そう、私は嫉妬していたんだ。お陰で一晩中悶々としてなかなか寝付けなかった。
玄関の扉を勢いよく開け外に飛び出すと、なぜか見えるはずの庭の景色が見えない。えっ……? と思った次の瞬間、何かに激突して弾き飛ばされそうになった。
「っ……危なっかしいヤツだなぁ~」
低く通る声。そして腰にまわされた逞しい腕……そこに居たのは、私を寝不足にした張本人――
「な、並木主任……どうして?」
「出勤前に荷物だけ置かせてもらおうと思ってな。今日から世話になるよ」
並木主任は自分の横の大きなキャリーバッグに視線を向け、ニッコリ笑う。
いやいや、そんな呑気に笑っている場合じゃない。
私は並木主任の手からキャリーバッグを奪い取ると、それを玄関の中に押し込み急いで扉を閉めた。



