「……あぁっ! もしかして……」
その時、私の頭に浮かんだのは、山辺部長の顔。
私が大嶋常務と話している時、山辺部長は会議室のドアの前に居た。全ての会話が聞こえたとは思えないが、断片的に聞こえていた可能性はある。
それに、山辺部長は私と並木主任が付き合っていると思っているから、私が大嶋常務に呼び出された時点で並木主任を疑っていたのかもしれない。
そのことを唯に話すと、唯も間違いないと興奮気味に何度も頷く。
「紬がトイレで会った女子社員も、その娘の部の部長が話しているのを聞いたって言ってたし、部長同士だからつい気を許して喋っちゃったのかも」
間違いない。噂を流したのは山辺部長だ。
そう思ったら、沸々と怒り込み上げてきてどうにもこうにも我慢できず、テーブルを叩いて立ち上がっていた。しかし唯は、山辺部長に文句を言うのはやめた方がいいと私の腕を引っ張る。
「なんの証拠もないんだよ。知らないって言われたら終わりだよ」
「だったら、どうすればいいの? このままじゃあ並木主任が犯人にされちゃう」
動揺する私に唯は、まず並木主任本人に確認すべきだと言う。
「えっ……私が確かめるの?」
「もうこれだけ噂が広がっているんだもの。明日には並木主任の耳にも入るよ。その前に教えてあげた方がいいんじゃない?」
確かに唯の言う通りだ。外野の私が騒いだところでなんの解決にもならない。当事者の並木主任の口からキッパリ否定してもらうのが一番いいのかも……



