うそ……どうして知ってるの?


慌ててトイレから飛び出し、喋ったこともない女性社員に掴み掛かる。


「それ、誰に聞いたの?」


仰天した女性社員が悲鳴を上げるが、構わず掴んだ肩を揺すり、誰からの情報なのかと問い詰めた。


女性社員は不信感丸出しの表情で私を凝視しながらも、自分の部の部長が課長に話しているのを偶然聞いたのだと教えてくれた。


「……部長も誰かに聞いたみたいだったわよ」

「誰かって、誰?」

「し、知らないわよ……」


ムッとした顔で私の手を振り払い女子社員が逃げるようにトイレを出て行くと、ひとり残った私は呆然と立ち尽くし、暫し放心状態。


情報漏洩したのは並木主任と決まったワケじゃないのに、もう並木主任が犯人にされている。このままじゃあ噂が広がるのは時間の問題だ……




――それから一時間後の昼休み。私の心配は現実のものとなった。


社食はその話題で持ち切りで、今まで並木主任ファンを公言していた多くの女子社員がショックを受け、あちらこちらで落胆のため息が漏れている。しかし中には、露骨に並木主任をけなす人も居て、社食は異様な空気に包まれていた。


「ねぇ、情報漏れるの早くない? まるで誰かが故意に噂を流しているみたい」


周りを見渡し眉を顰める唯の言葉に私も大きく頷く。


唯は、並木主任に嫉妬している人の仕業なのかもと言うが、大嶋常務が情報漏洩を調べているのは事実。噂は完全なデマではない。


常務が自らそんな噂を流すとは考えられないし、そうなると大嶋常務がここに来た目的を知っている人が情報元ってことになる……