唯に続いて母親まで……並木主任を彼女から奪えっていうの?


母親が応援してくれるのは嬉しいけど、並木主任が、婚約寸前……いや、もしかしたらもう婚約しているかもしれない彼女と別れるとは思えない。


「あのねぇ……並木主任はもうすぐ本社に戻っちゃうの。東京に帰ったら、すぐに彼女と結婚するよ」

「だったら、東京に帰るまでに並木さんの気持ちを変えればいいのよ」


母さんったら、難しいことを簡単に言ってくれる。


やれやれと思いながら背中を丸めてお茶をすすっていたら、母親がダイニングテーブルに両肘を付き不敵な笑みを浮かべる。


「もう手は打ってあるから!」

「なんのこと?」

「並木さんに、ここに住んでもらうことにしたから」

「ぐっ……ブホッ!!」


驚いて口に含んだお茶を豪快に吹き出してしまった。


唇から滴るお茶を拭いながら母親に詰め寄り事情を聞くと、今朝、私が出勤した後、並木主任に翔馬の受験が終わるまでウチで同居しないかと提案したらしく、並木主任もそうすると言ったらしい。


「昨日みたいに遅くまで勉強していたら自宅に帰るのは深夜になっちゃうでしょ。睡眠時間も短くなるし仕事に支障が出たら困るじゃない。でも、同居すれば、勉強が終わったらすぐに寝てもらえる」


でもそれは建て前で、母親の真の狙いは、私と並木主任がより親密になるよう関わる時間を増やす為。寝食を共にすればチャンスも増える。そう考えてのこと。


「母さん、凄いね……」


私には、母親のこの積極性は遺伝しなかったようだ……