「……その誰かが、並木主任ってことか……」
大嶋常務は並木主任が海外の企業に情報漏洩していると思っているんだ……
「間違いないよ。あの乳酸菌の研究をしていたのは並木主任なんだし、商品開発部がどんな製法で商品化するかを知ることもできる」
唯の話しはあくまでも推測でそうと決まったワケじゃない。だけど、そう考えると全てが綺麗に繋がる。
「……でも私、信じないから。並木主任は自分勝手な人だけど、そんなことするような人じゃない。会社を裏切るような人じゃないもの」
「私もそう思うけど……常務が直々にこの研究所まで来たってことは、本社は完璧に疑ってるってことだよね。並木主任、大ピンチだよ」
そうだよね。疑いを晴らすには潔白だということを証明しなくちゃいけない。あっ……並木主任が本社に呼ばれたのも、それと何か関係があるじゃあ……
私が考えてもどうなることでもないが、並木主任のことが心配で落ち着かない。家に帰っても食事が喉を通らず殆ど残してしまった。
「どうしたの? どっか悪いの?」
「あ、うぅん……食欲がないだけ」
ため息を付く私を黙って眺めていた母親だったが、暫くすると肩を突っつき「それ、恋煩いじゃないの?」って茶化すように聞いてくる。でも今は母親の冗談に付き合う余裕も気力もない。
何も答えず湯呑にお茶を注いでいると、また母親が私の肩をツンツンして妙なことを言い出した。
「私ね、決心したから」
「んっ? 何を決心したの?」
「紬の初恋を成就させるの。並木さんに彼女が居ても諦めないわよ」