「そうですか……大嶋常務なら中に居ます」
正直、今は山辺部長の相手をしている暇などなかった。一刻も早くオフィスに戻って唯に大嶋常務の件を相談したい。まだ山辺部長が何やら喋っていたが、それを無視して足早に検査事務部に戻る。
けれど今度は課長がしつこく絡んできてなかなか解放してくれない。そんな風だから、唯とゆっくり話しができたのは終礼が終わった後。
山辺部長は終礼にも顔出さなかったから、大嶋常務はまだここに居るのかもしれない。だったら、男性が入ってこれないロッカールームで唯に相談しよう。そう思った。
誰も居なくなったのを確認し、声を潜めて大嶋常務とのやり取りを話すと、さすがの唯も「それ、ヤバくない?」と顔を引きつらせる。
唯が一番反応したのは、大嶋常務が感情的になり口走った『最近、彼が会社の不満を口にしたことはある?』と『他社の同業者と会っているのを見たり聞いたりしたことは?』という質問だった。
「並木主任が会社に不満を持っていて他社の同業者と密会して良からぬことを企んでいる……そう言っているように聞こえるよね」
「うん、唯もそう思う?」
「それ以外ないでしょ? ライバル会社にバイオコーポレーションの極秘情報を漏らしているって疑ってるんじゃない?」
唯がサラッとそう言った直後、私と唯は顔を見合わせ「乳酸菌!!」と声を揃えて叫んでいた。
「そうだよ。本社が商品化に力を入れていたあの乳酸菌。海外の企業がウチの会社と全く同じ製法で特許を取得していたってやつ。あれ、バイオコーポレーションの誰かが情報を漏らしたって疑っているんじゃあ……」



