アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


そして思い出したんだ……並木主任が決断をしなくてはいけないと言った時、気が重そうに目を伏せたことを……


並木主任は彼女との結婚を躊躇している?


そう思ったら、もう止められなかった。唯に今までのことを全て話し、私はどうしたらいいのかと頭を抱える。


「ちょっ……キスって……もうそんなとこまで進んでたの?」


想像していた以上に私達の関係が進展したいたことに驚き、唖然としていた唯だったが、すぐに薄気味悪い笑みを浮かべ、二重の大きな目を更に大きく見開く。


「キスまでしてるんだったら、迷うことなんてないじゃない。付き合っちゃえば?」


並木主任が彼女と結婚したくないと思っているのなら、もしかして……って舞い上がってしまったけれど、そんな風にアッサリ言われると今度は罪悪感で尻込みしてしまう。


「でも、彼女と別れると決まったワケじゃないし……それに、キスしたのは冗談っていうか……挨拶っていうか……」


いざとなると弱気になるヘタレな私に、ついに唯の怒りが爆発した。


「もぉ~だから紬は彼氏ができないのよ。いい加減、自分の気持ちに素直になりなさい!」


ジリジリと迫ってくる唯の顔が恐ろしくて思わず頷いてしまったが、心の中ではまだ葛藤が続いていた。


並木主任の気持ちがどうであれ、まだ彼女と付き合っているんだもの……


すっかり冷えてしまったポークジンジャーを口に入れ、窓の外に目をやると、どんより曇った空が広がっている。


まるで私の心の中みたいだとため息を付いた時だった。背後から女子社員の悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。