アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


並木主任の結婚話が私の想像だと知った唯は脱力してため息を漏らす。


「紬ってさぁ、意地っ張りで負けず嫌いのくせにヘタレだよね。でもって、凄い鈍感」


その性格は自覚しているが、改めて言われるとちょっとムカつく。


「で、何が言いたいのよ?」

「だから、並木主任の気持ちを全然理解していないってことよ。いい? 確かに並木主任には彼女が居て結婚の約束をしているかもしれない。でも、心変わりする可能性だってある。男と女はどうなるか分かんないんだから」


つまり唯は、並木主任が彼女から私に心変わりしたと言いたいらしい。


「まさか……そんなこと……」


にわかには信じられず、有り得ないと否定するが、なぜか唯は自信満々だ。しかしこれ以上、話していると遅刻してしまう。続きはランチの時にということで、ふたりして検査事務部へダッシュする。


着替えを済ませ席に着くとすぐに朝礼が始まり、オフィスに居る全員が立ち上がって山辺部長に注目した。が、なぜか山辺部長の視線は私の方ばかり向いていて業務連絡をしいてる間、何度も目が合った。


あぁ、そうか……あの料亭でのこと気にしているんだ。


並木主任が山辺部長をからかって私達は付き合っているって言ったから……で、濃厚チュウもしちゃったし。


気まずくて山辺部長から目を逸らすと、部長が一呼吸置いて重要なお知らせがあると声を張り上げた。


「今日は、東京本社から大嶋(おおしま)常務がお見えになる。各部署をまわって挨拶されるそうなので、くれぐれも失礼のないように」