アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


……ってことは、キスしていたのを誰かに見られた可能性があるってことだ。


顔面蒼白で固まっていると、唯が出勤してくる他の社員を避けるように私を玄関ホールの隅に引っ張って行く。


「ねぇ、ホントは並木主任となんかあるんじゃないの?」

「それは、えっと……」


唯には、彼女が居る人を好きになっても辛いだけ。諦めた方がいいと偉そうに諭した手前、並木主任のことが好きになったなんてとても言えない。


けれど、たとえ自分勝手だと罵倒されたとしても、親友の唯にだけは嘘は付きたくないと思った。


「……唯、ごめん。私、並木主任のこと好きになっちゃったみたい……」


怒鳴られるのを覚悟でカミングアウトしたのに、唯は怒るどころか納得の表情で「やっぱ、そうなったか~」って平然としている。


どうやら唯は、私が並木主任を好きになるのは時間の問題だと思っていたようだ。


「この街に並木主任以上のイケメンは居ないからね。惚れない方がどうかしてるよ」

「でもね、並木主任、もうすぐ本社に異動になるって……で、東京に帰ったら、彼女と結婚するみたいなの」


苦笑いで悲しみを誤魔化していると、唯が眉間に深いシワを刻み首を傾げる。


「ねぇ、並木主任、本当に結婚するって言ったの?」

「えっ……」


確かに、並木主任の口から直接、結婚するとは聞いていない。というか、聞きたくないから深く追求しなかったんだけど……