――翌日、日曜日……


結局、並木主任は自宅には戻らず、ウチに泊まった。


翔馬は喜んでいたが、私はひとつ屋根の下に並木主任が居ると思うと妙にソワソワしてなかなか寝付けなかった。でも、私が眠れなかったのには、もうひとつ理由があったんだ。


昨夜、四人で夕食を食べている時、母親が家庭教師の謝礼をいくら払えばいいかと並木主任に訊ねたのだが、並木主任は、好きでやっていることだから謝礼などいらないと母親の申し出を断った。


しかしそういうワケにはいかない。少しでもいいから受け取って欲しいとお願いしたところ、それなら謝礼代わりに、家庭教師をする日はここで夕飯をご馳走になる。それで十分だと譲らない。最終的に母親が恐縮しつつその提案を呑んだ。


まぁ、並木主任も残業とかあるし、週に二回くらいのことだろうと私も納得したのだが……


「えっ? 毎日?」

「当たり前だ。今から偏差値を二十以上、上げなきゃいけないんだぞ。毎日、死ぬ気で勉強しないと間に合わない」


偏差値二十以上……? なんか、無謀な挑戦に思えてきた。


しかし並木主任は、翔馬は飲み込みが早いから絶対に大丈夫だと自信満々だった。


そして今日も朝から翔馬の部屋に籠り、ふたりが姿を現すのは食事の時だけ。


「翔馬と並木さん、お風呂入らないのかしら?」


時間は既に夜の十二時をまわっている。母親も明日は仕事だ。私が起きているから先に寝てと声を掛け、ひとり居間でビールをチビチビ飲みながらテレビを観ていると、階段を下りる足音が聞こえてきた。


しかし居間に入って来たのは並木主任ひとり。翔馬の姿はない。