「いいよ。披露宴が終わったら、あの温泉に行って一緒に家族風呂に入ろ?」
まったり温泉に浸かる新婚旅行も悪くない。そう思った時、女性スタッフが披露宴が始まる時間だと私達を呼びに来た。
愁にエスコートされ控室を出ると、毛足の長いフカフカの絨毯を並んで歩き、披露宴会場の"飛翔の間"へと向かう。
そして扉の前に立ち、愁の腕に自分の腕を絡めて顔を上げれば、この世で一番大切な人の笑顔があった。
私が好きになったのは、口が悪くて意地悪で、関われば、結構な確率で厄介なことに巻き込まれる危険な香りがする男だけれど、最高に刺激的で優しい人……
「ねぇ、愁、ひとつだけ訂正してもいい?」
「んっ? なんだ?」
「私達が始まったのは、あの温泉からじゃないよ」
「えっ?」
「もっと前、チンジャオロースからだよ」
微苦笑した愁が肘で私の腰を突っつくと目の前の扉が勢いよく開く。割れんばかりの拍手と祝福の声が響く中、深々とお辞儀をしたのだけれど、頭を上げる直前、愁が「あのな、紬……」と何か言い掛けた。
てっきり愛の言葉を囁かれるのだと期待していたのに、それは思いもよらぬカミンクアウトだった。
「……実はな、俺もピーマン大嫌いなんだ。死んでも食いたくない」
「はぁ? じゃあ、私がピーマンを口に押し込まれた時、どんな気持ちだったか想像できたでしょ? それなのに、無理やりあんなこと……」
「昔のことだし、忘れた」
「なっ、信じらんない! 愁って最低!」



