まるで夢を見ているような、そんな感覚だった。ほんの一時間前までは、愁と別れなきゃいけないと思っていたのに、いきなり結婚式だなんて……恋愛小説大好物の唯も腰を抜かすような驚きの展開だ。
だからふたり並んで神父様の言葉を聞いていても、突然目が覚めて悲しい現実に引き戻されるんじゃないかと不安になる。
「では、指輪の交換を……」
神父様の言葉にハッとして顔を上げると愁が私の左手を取り、シルバーにゴールドのウェーブ状の模様が入ったシンプルなリングを薬指に滑らせた。
これが夫婦の証。結婚指輪……
指輪が肌を伝うひんやりとした感覚に、これは夢じゃない。現実なんだとやっと納得したのだが、その時、愁が「もうひとつ」と言ってタキシードのポケットから何かを取り出す。
「順番が逆になってしまったが、これも受け取ってくれ」
同じく左手の薬指に結婚指輪と重なるようにはめられた指輪には、目が眩むような輝きを放つ滴型の大きなダイヤが……その圧倒的な存在感を放つダイヤには見覚えがあった。
いつか早紀さんと行ったジュエリーショップで思わず見惚れてしまった、あのめっちゃ高い指輪だ!
「……もしかして、これも作戦のひとつだったの?」
「あぁ、せめて婚約指輪はお前の気に入ったモノにしてやりたくてな」
照れくさそうに笑う愁。その笑顔を見た瞬間、全身から大量のアドレナリンが放出され完全に理性がぶっ飛ぶ。
その結果、自分の行動をコントロールすることができなくなり、自らベールを捲りあげ、愁の唇を奪うという暴挙に出てしまった。
あぁ、柔らかくて温かい。愁の唇だ……



