アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


「紬を一人前に育て上げたのは私よ。私にはその権利があるわ」


母親らしいなってクスリと笑うと、女性スタッフと正装をした男性スタッフが目の前の扉に手を掛ける。


「では、行ってらっしゃいませ」


その声と同時に扉が開き、柔らかな光の帯が放射状に流れ込んできた。目の前に現れたのは、神聖な雰囲気が漂う大聖堂と多くの参列者の人達の姿。


殆どが会社関係の人達だったが、その中に翔馬や唯。それに、栗山さんが居てくれたことが嬉しくて、もうこの時点で泣きそうだった。


すると優しいハープの音色がチャペル内に響き渡り、頭上から柔らかな白い羽根が舞い降りてきた。そして視界の中で揺らめく羽根の先に見えたのは、中央祭壇に続く深紅のバージンロードと愛しい人の笑顔。


あぁ……愁……


吸い込まれるように足を踏み出せば、徐々に鮮明になる愁の凛々しい姿。シルバーのタキシードに身を包み、温和な表情で私を見つめている。


母親と共に一歩、また一歩と歩みを進め愁の前に立つと、母親が私の手を取り、託すように愁に差し出す。


「どうか紬を幸せに……宜しくお願いします」


母親の震える声を聞いた瞬間、堪らず一筋の涙が頬を伝った。


母さん、今までありがとう。本当に、本当にありがとう。


言葉にならず、心の中で感謝の言葉を繰り返していると、愁が母親に向かって一礼し、母親が胸に抱えている父親の写真にも深々と頭を下げた。


「お父さんにも約束します。紬は自分が必ず幸せにします」

「愁……」