「愁さんには心に決めた女性が居るってことは知ってたわ。でも、それが新田さんだと分かったのは、あなたが本社に初出社した日よ」
「えっ……初出社した日?」
「そう、まだ愁さんが地方の研究所に居た時、突然私を訪ねてきて言ったのよ。大切な女に靴をプレゼントしたいから選んでくれって……」
私がそのヒールを履いているのを見た根本課長は悟った。
「この娘が愁さんの大切な女なんだ……ってね」
だから根本課長は愁との結婚話しが出た時、私が愁をどう思っているか確かめる必要があった。
給湯室で私の気持ちを確認し、その気がないことが分かるとすかさず社長の奥さんに電話をして話を進めて欲しいと頼んだ。
あの電話の相手は山辺部長ではなく、社長の奥さんだったんだ。
しかし愁は根本課長との縁談を断ってきた。それだけでもショックだったのに、あろうことか、私と結婚式を挙げるから協力してくれと言ってきたそうだ。
「無神経にも程がある! 愁さんがそんな残酷な男だとは思わなかったわ!」
どっかで聞いたような台詞を吐き、根本課長が怒りを露わにする。けれど、その直後、私にしか聞こえない小さな声で「幸せになりなさい」って言ってくれたんだ。その優しさに胸が熱くなり泣きそうになる。
すると再びノックの音が聞こえ、若い女性スタッフが顔を覗かせた。
「ご新婦様。そろそろお時間です」
控室のドアが開け放たれ、女性スタッフが長いベールを丁重に抱えて私の背中にソッと手を添えても、まだ自分が新婦という自覚はなく、どこか他人事のよう。



