アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


私の目は自然に、専務室に居たもうひとりの人物、根本課長に向く。すると突然根本課長が青筋を立てて大声で怒鳴り出す。


「なんだそれって言いたいのは私よ! 今日、ウエディングドレスを着るのは私のはずだったんだから!」


この一言で、専務室で元木さんが聞いた愁の結婚話しの相手が根本課長だったということが判明した。


早紀さんの説明によると、愁がなかなか結婚しないことを心配した社長の奥さんが、同じく独身の根本課長と結婚させようと考え、勝手に話しを進めていたらしい。


「私の兄さんも含め、身内に三十を過ぎた独身がゴロゴロ居るから、清子おば様もなんとかしなきゃって焦っていたみたいです」

「ちょっと、早紀ちゃん、ゴロゴロとは失礼ね。私は年上の愁さんが結婚しないのに、先に結婚しちゃ悪いと思ったからで……」


ムキになって怒鳴っていた根本課長だったが、そこまで言うと口を噤み、自嘲的な笑いを浮かべた。


「……っていうのは建て前で、本当は愁さんのことずっと待っていたの」


完全に女の顔になった根本課長のローズピンクの唇から切ないため息が漏れる。


「子供の頃から愁さんのことが好きだったわ。でも、彼は私に全く興味がなくてね。でも、待っていればいつか……って思っていたの。だから、清子おば様に愁さんと結婚する気はないかと聞かれた時は嬉しくて舞い上がったわ」


"ちょっとした発表"――それは、自分の結婚発表のはずだった。


しかし根本課長は、愁が縁談を断るのではという不安を拭えずにいたんだ。その理由は……