根本課長は、栗山さんが自ら内通者だと宣言した直後、秘書課の主任にこっそり指示して社員を全員会場の外に出していたんだ。


そうだったのか……話しに夢中になっていて全く気付かなかった。


「大嶋専務の名誉の為に、あの話しを社員に聞かせるワケにはいかないわ。それと、栗山さんの名誉の為にもね」

「根本課長……」


厳しいことを言う人だけど、部下の栗山さんのこと気遣ってくれていたんだ。栗山さんが解雇されそうになった時も庇ってくれたし、本当は優しい人なのかもしれないな。


根本課長のこと誤解していたのかも……なんて思っていたら、その根本課長がいきなり私の背中を押す。


「さあ、こっちもそろそろ準備しないと」


準備ってなんの準備だろう? そんなの事前の打ち合わせにはなかったけど……


つんのめりながら顔を上げれば、社長達の後を追い会場を出ようとしていた愁が根本課長に「宜しく頼む」と言って顔の前で手を合わせていた。


その意味が分からぬまま根本課長に会場から連れ出されてエレベーターに乗せられる。課長が押したのは最上階のボタンだ。


あ、確か会見後のパーティーは最上階の"飛翔の間"だって言ってたよね。ってことは、その準備か……他の秘書課の人達は先に行って準備をしているのかもしれないな。


納得して点滅する数字を眺めていたら、ふと、根本課長がミーティングで言っていたあの言葉を思い出す。


栗山さん達のゴタゴタがあったから、きっと発表する時間がなくなってしまったんだ。


「根本課長、ちょっとした発表って……なんだったんですか?」